無借金経営とは?本当に良いことだけなの? ~メリットとデメリットを経理が解説します~

「借金」というと、ネガティブなイメージがありますよね?
なんだか「お金を返さなければいけない」と言うだけで、なんとなくプレッシャーも。
そういう意味では「無借金経営」という言葉は、何とも言えない魅力があります

しかし、借金によって、得られるものも大きいのは事実。
自分のお金だけではできないような大きな事業を始められるのも、借金があるから。

無借金経営にはデメリットもあるという話もよく聞きます。
無借金なのに悪いことがあるの?という疑問も浮かびますよね。

さて、無借金経営は結局良い?悪い?

そもそも無借金経営とは

そもそも、無借金経営とは何?ということから説明させていただきます

無借金経営とは、基本的に、銀行などから借金をせずに経営をすること。
会社の場合は、社債を発行することで借入をすることもできますが、それも借金の一つ。

資本の調達源泉には大まかに分けると2種類あります。

自分の用意したお金は、借金ではなく、自己資本。
株式会社の場合は、株式を発行して集めたお金も、自己資本です。

また、会社が利益を上げ、配当をせずに留保すれば、自己資本は増加します。

ちなみに、商品を掛けで購入して、お金は後からまとめて払います!という取引がありますよね。
そういった後から払わなければならない債務(この場合は買掛金)は、上記でいうと負債に該当します。
しかし、買掛金は借金とは違いますよね?
そのため、無借金経営=負債がゼロ!というわけではありません。

まとめると、無借金経営とは、借金(社債を含む)をせずに行う経営を言います!

無借金経営のメリット

支払利子がない

無借金経営の最大のメリットは、利子を払わなくて良い!ということ。
借入の金額が多いと、支払利子も相当な金額となり、経常利益を圧迫します。
せっかく営業利益が多く出ていても、その多くが銀行に持っていかれてしまうのはもったいないですよね?

同等規模の事業で同程度の営業利益が出ている場合には、借金のある経営より、無借金経営のほうが収益性が高いです。

経営の意思決定に自由がきく

無借金経営のほうが、銀行などから借り入れをしている場合と比べ、自由な経営ができるというメリットがあります。

銀行からお金を借りれば、銀行の意向に沿った経営を強いられることも。
銀行は、会社が経営不振に陥ったり、資金回収ができないような状況になると、徹底したコストカットなどを要求をすることがあります。

お金が返って来なくなるのは困るので、当然といえば当然。
そして、借りている側もそれを無下にはできません。それも当然ですよね?

無借金経営では、そのように銀行などからの要求を受けることはありません
なお、株式発行により、自分以外から自己資本を集めていれば、その株主から意見を受ける場面も出てきますが、自分が資金の大部分を用意しているのであれば、それもありません。

なお、銀行からのアドバイスによって、経営が改善されることもあり得ます。
しかし、銀行はあくまでも、基本的には「お金が回収できること」を考えた上での要求をしますので、「経営改善」を考えたアドバイスというわけではありません。
「お店を改装して、売上アップを図ろう!」とか思いついても、「お金が返って来なくなると困るからやめてくれ!」と止められてしまうかも。

それに比べ、無借金経営のほうが経営の意思決定は自由です

財政状態が良いと判断される

無借金経営であると、借金がないため、財政状態が良いと判断されます

「財政状態が良いか悪いか」ということは、自己資本が大きいか小さいか、といったようなことから判断します。
借入金が多すぎて返せなくなれば、上でも説明したように倒産してしまうからです。

新規の取引先に、財務諸表の提出を求められることもよくありますが、そのようなときに財政が安定している、とアピールできるわけです。
借入が多すぎて、「買掛金が回収できないのではないか」「外注しても途中で倒産してしまうのではないか」などと思われてしまえば、取引開始ができないこともあります。

また、建設業で言えば、財政状態が良ければ建設業者の評価ポイント(経審と呼ばれるもの)でも評価が上がり、入札が有利になるなんてことも。

さらに、上場企業その他の株主が多くいる会社などであれば、投資家にも財政が健全であるアピールをすることができます!

無借金経営のデメリット

さて、無借金経営のメリットを見ると、「やっぱり無借金経営は良いことばかりじゃないか。」と思うかも。
しかし、無借金経営にもデメリットはあります

事業規模が拡大しにくい

無借金経営では、事業規模を拡大しにくいというデメリットがあります

上記のように、その機械を買うことによって、収益を獲得できるビジネスができるというのに、自分の元手だけでは手が届きません。
このような状況に直面したときに、無借金経営では規模を拡大できないというデメリットがあります。

資金繰りに余裕がなくなる

手持資金に余裕のない状態での無借金経営では、資金繰りに余裕がなくなるというデメリットがあります。
資金繰りに行き詰まると、黒字であっても倒産することがあります。

上記のように、手持資金は余裕がある状態のほうが、資金繰りに余裕ができます。
一般的には月商の3ヶ月分の資金が必要と言われています。

現金売上が中心であるならば、売上=入金となります。
小売業や飲食店業の一般的なイメージです。
しかし実際には、売上げてから入金があるまでのタイムラグもあります

さらに、その入金があるまでに仕入代金など、いろいろな支払いが生じることになります。
そのため、手持資金は、月商の3ヶ月分は必要と言われているのです。

そういった資金不足の状態であるのであれば、運転資金を確保するための借入をすることも視野にいれましょう。

急な借入れの対応がしにくい

無借金経営のもう一つのデメリットは、急な借入れの対応がしにくいという点です
運転資金は月商の3ヶ月分程度確保しており、いつもはうまく回っている、という状態であっても、急に資金が必要な状態になるかもしれません。

例えば、機械に不具合があって、製品の製造ができなくなった!という事態になったとします。
まずもって、修理をするためのお金も必要です。
さらに、売上も減少するため、資金不足の状態に。

そんなとき、普段から銀行で借入をしている場合ではどうでしょう。
普段はしっかりと期日通り返済をしていれば、銀行は強い味方。
「こんな事情があって、一時的に資金を貸して欲しい」と相談すれば、すぐに応じてくれるでしょう。

逆に、無借金経営を続けていた事業者の場合はどうでしょうか。
新たに、借入をすべき金融機関を探し、事情を説明して受け入れてもらう必要が出てきます。
さらに、なかなか借入先が見つからなければ、廃業の危機さえ訪れる可能性もあります。

銀行は新規の融資をする際、慎重に判断をし、融資までの時間もかかります。
一度審査を受けて、借入枠を確保していれば、このような事態も防ぐことができるでしょう。

無借金が良い悪いというよりも…

ここまで見ていて気づいた方もいるかも知れませんが、無借金経営が良い!悪い!という問題ではありません

そもそも、一定の自己資本が用意できなければ、無借金経営はできない!というところから始まります。
逆に、潤沢な資金があるのに更に借金をする、なんてこともナンセンス。

事業の規模に合わせて、どれくらいの資金が必要かを考え、そこから自分は借金をすべきか、無借金で行くべきかという判断を下すこととなるのです。

借入をすべきか無借金で行くべきか

借入をすべきか、無借金でよいのか、という判断は、下記事項から検討しましょう。

①事業規模
②キャッシュフロー予測
③適切な運転資金の確保

事業規模

まず、事業規模の程度がどのくらいなのかを考えることが、借入が必要かどうかを検討するための第一段階です。

このように、開始しようとしている事業に対してどの程度の元手が用意できるかによって、借入が必要かどうか判断します。

なお、あまりにも借入金が多くなるようでしたら、不安要素も大きいです。
一般的には借入は総資本の30%程度が良いと言われています。

借入の割合が大きいと、それだけ倒産のリスクも高まりますので、あまり大きいようでしたら、投資計画を一度見直す必要もあるでしょう。

キャッシュフロー予測

次にすることは、キャッシュフローの予測をすることです。

ここで重要なことは、多少余裕を持って毎月銀行に返済するキャッシュが生まれるような予測になっているか?ということです。

この銀行の返済に充てることができるキャッシュフローを、フリーキャッシュフローと言います。
ざっくり言うと、営業活動から得たキャッシュフローから設備投資などで支出した分を差し引いて、自由に使えるキャッシュフローです。
これが一定額確保できるような計画であれば、銀行からの借入も徐々に減らして行くことができるでしょう。

なお、キャッシュフローの見込みを立てることは、意外とむずかしいです。
そのため、入ってくるお金の予測は少なめに考えておいたほうが良いでしょう。

収益性検討の注意点

借入前と借入後の収益性を比較して、借入をするか判断する方法はあります。
しかし、特に初めて小規模ビジネスを開始するような方の場合には、まずキャッシュフローの見込みを検討しましょう。
なぜなら、そこまで資金力がない場合、収益性が高まったとしても、資金繰りに行き詰まれば倒産してしまうためです。
それを考えた上で収益性について検討をしても良いでしょう。

適切な運転資金の確保

キャッシュフローの見込みが立ちましたら、資金繰りがうまくいくために準備する資金を考慮した上、適切な金額を借り入れましょう。

必要な資金は、一般的に月商の3ヶ月分と言われています。
しかし、売上の入金までの流れや、その他の資金の流れは業種によって異なりますので、その点も考慮して必要な額を用意しましょう。

なお、余計な借入をしないためには、正しく資金繰りを行うこと。
資金が少ないときに緊急性のない設備投資をしないようにする、といったことです。

資金の動きが偏ることで、一時的にお金が足りない状態になってしまったりします。
月次で資金繰り表を作成するなど、なるべく資金の動きは適切に把握しておきましょう

融資は専門家など第三者の意見も聞こう

融資を受けたい!と思ってまず話をするのは金融機関。という方も多いでしょう。
事業を始めるには、まずはお金を借りなければいけない方も多いからです。

更に、「銀行がお金を貸してくれるなら、とりあえず安心だ。」と思っている方も多いです。
銀行もお金の専門家ですからね。
しかし、実際には「安心」ではありません。

銀行は利息で儲けているのです。
そのため、銀行が「大丈夫」と言っても、その事業が本当に大丈夫かは分かりません!
銀行にとって一番良い客は、利息をたくさん払ってくれて、借金を続けてくれる客です。

安易にお金を借りてしまったばっかりに、借金と利息の支払いに追われる日々が始まってしまうかもしれませんよ。
そのため、融資をする際は、そういった利害関係のない税理士などのお金の専門家に相談するのも一つの手です

私の分析業務から見えたこと

私は以前、建設業の中小企業にて7年間に渡り、同業他社の分析を自社の経営改善に役立てるために行っておりました。
実際にさまざまな無借金経営の会社や借金している会社を見てきましたので、ここに一例を紹介します。

無借金経営の成功例・A社

A社は、従業員数200人程度の中小建設業社。
事業の規模に対して総資本が大きい状態でした。
つまり、事業に使う機械や設備などの総額を相当上回る資金を持っているという状態で、
余剰資金は投資に回していました。

A社は一族経営の会社であり、会社に一族の資金を貯めている、という面もあるようです。

上記のように、A社は無借金経営の良い部分を最大限に享受し、うまく経営をしていらっしゃいました
本業の調子が悪いときでも、その他の収入もあるため、そういった意味でも経営が安定している会社でした。

他にもA社のような無借金経営の別の会社も、他の会社が「利益がでない」として手を出さなかった案件を積極的に受注し、近年売上は急増。
これは、無借金経営の自由な経営ができるというメリットを活かした結果でしょう。

上記のように、長年の利益の蓄積により、結果として無借金経営という会社については、「無借金経営のデメリットは小」と言えるように思います

借金のある経営の成功例・B社

B社も、従業員数200人程度の中小建設業社。
B社は、銀行借入と社債の発行によって、総資本の30%程度の借入をしながら高い利益を出し続けていました。

支払利子を上回る投資の効果を得ているため、総合的に収益性が高い会社でした

なお、コストに対する意識の高さや企業の成長に対する意欲は、A社やB社よりも高いように思いました。
二次的な要素ですが、「無借金=安心」「借金=不安」という心理が働くためか、うまく経営している企業については、借金をしている会社のほうがお金に対する意識を高く管理ができているような印象があります。

無借金経営の失敗例・C社

C社は無借金経営ではありますが、銀行から借入ができなかったことによる、「結果的な無借金経営」
社長一人で経営を行っております。

資金繰りは極めて厳しく、結果として税金や社会保険料などを常に滞納している状態
なんとか自己資本を用意し、設備投資を行い、事業を始めたのですが、なかなか経営が難しい状態となっています。

借金のある経営の失敗例・D社

D社も従業員数200人程度の中小建設業社。
借入金依存度が相当高く、赤字案件まで受注しないと資金繰りが回らないような状態となっています。


ちなみに中小企業の中にはD社さんのように、「借入が多すぎて」経営が非常に厳しいという会社は非常に多いです。

そのような状態となってしまえば、せっかく利益がでても、「やっとお金が返せる…」という安堵が生まれる程度。
また、これから事業を拡大したくても新たな借入はもちろんできないでしょうし、設備投資でテコ入れを図りたくても、「その前にお金を返して下さい!」という話にもなってしまいます。
結局、銀行の言いなりになって働き続け、いつか特需が生まれたときに返せるかもしれないという希望を持つことくらいしかできないでしょう。
私はそういった企業の行く末が心配です。

分析業務からみて

「無借金経営のデメリット」が顕著に現れているのは、小規模な事業者が多かったです。
規模の大きい会社で無借金経営をしている会社は、長年の蓄積によって、すでに借金をしなくても利益を生み出す体制を築いてしまったのでしょう。
そういった規模の大きい会社については、無借金経営=財政安定の優良企業という印象でした

なお、成長している業界の場合、どんどん借金をして新たな投資をし、会社や市場も拡大していきます
借金があるからこそ、将来性に期待できるのです。

そのため、「無借金経営」で留まっているということは、「成長性が薄い」かもしれませんし、「保守的すぎる」経営であるかもしれません。
会社の分析をする際も、「借金があるかないか」という事実だけではなく、「どうして借金をしているのか、借金をしていないのか」といったことにも目を向け、総合的に判断していくことができれば良いでしょう

まとめ

無借金経営!というと、優良!というイメージはありますよね。
しかし、実際には、必ずしもそうとは限りません。
この記事を見て、ご理解いただけたかと思います。

一言に無借金経営と聞いて、良い!悪い!と決めつけるのはやめましょう!